チバイチ24Hへの挑戦 中盤~ゴール

2021年11月6日

2021年10月15日(金)17:14
ついにチバイチも半分を終えた。520kmを130km x 4セットと考えた場合に、ここからが鬼門のワークアウトの3本目。そして夜の時間が始まる。ここからが本番だ。まだ足は残っているがここまでグロスを稼ぐために、ダンシングで腰を休める時以外はずっと下ハンを持っていたから腰が痛い。上半身の筋肉も大分やられている。やれる事をやれる範囲でやるしかない。それが24時間チャレンジだ。自分にそう言い聞かせる。520kmを4分割した130kmは25kmを5本と考える。25km毎に背中に刺さっているサンドイッチを食べる。サンドイッチを5本食べれば3/4が終了だ。

チバイチの中間地点である九十九里を過ぎて1時間ちょっと、外洋海岸線の平坦区間が終わる。ここからは短い登りと下りをひたすら繰り返す区間だ。これが鴨川を過ぎるまで続き、房総半島南端の根本港周辺の短い平坦を終えたら洲崎から木更津まではまた短い登りと下りを繰り返す区間だ。この鬼門の3セット目が終わる390km地点が終わるのは洲崎を過ぎた鋸南町の手前。どう考えてもここから辛くなるのは目に見えていた。

3セット目が始まって間もなく18:00になれば、もう真っ暗だ。短い登りをダンシングで漕ぎ、ダウンヒルはグロスを回復させる為に下ハンを持って踏み込む。予定通りVolt400は点滅で昼から点けっぱなし。RN1500は登りは400ルーメン、下りは800ルーメンにして運用する。それでも暗闇に目が追い付かず何回か大きな轍にハマり、車体がガツン!となり冷や汗をかく。トンネルでは車が後ろから来ないのを振り返り急いで走り切る。「精神修行」なんて言われていた利根川CRでさえ、景色は綺麗で楽しかったが、今のこの闇の中では何も見えない。街灯もない。RN1500ではせいぜい数十m先の地面を照らすので精一杯だ。

ひたすらに登りをダンシング、下りは下ハンを繰り返す。もう何本この短い登りをクリアしたか分からない。それにしても時間が進まない。サイコンの「km」の数字が回っていかない。25km毎に背中に刺さっているパンを食べるのだが、その時間がなかなかやってこない。疲労も回ってきてずっと流しっぱなしにしてるアニメの音声も内容が頭に入って来なくなってくる。途中何度かスピードに乗ったダウンヒルの先で信号に止められてしまう。止まると漕ぎ出すのが重い。前半では感じたことのない疲労を感じ始めていた。

ようやく少し開けた場所に出たと思ったら「Kamogawa」の看板が。ようやく鴨川まで来たのか。このアップダウンももう少しの筈。そんなことを思っていると「Kamogawa Sea World」のネオンサインが。精神的にも疲れてきたので、ここで記念写真をとってツイートしておく。

これでようやく300kmを少し過ぎて310km。それにしても3セット目の終わりが遠い。まだ80kmもある。信号で止まるたびにツイッターをチェックして応援のリプを見てエネルギーを補充する。ここで挫けるわけにはいかない。まだ足は残っている。体力もある。気力もある。ご飯を取り込む胃も生きている。やるべきことをやるだけだ。また短い登りをダンシングで乗り越える。

急に便意を覚える。夜になって登坂時の汗でお腹が冷えてしまった様だ。大惨事にならないうちに手近なトイレに入らねばと思っていると、またも天の助けで左側に公衆トイレが。しかも多目的トイレがある。こんな時間であれば他に利用者はいないので自転車ごと多目的トイレの中に入れて用を足す。が、出ない。確かに人権が侵害される恐れのある便意があったのに何も出ない。。。3分ほど粘ってみるも、まったく出ない。これ以上、時間を無駄にしても仕方ない。これも今回のロングライドの経験という事で先に進むことにする。ラッキーな事にトイレの横にゴミ箱付きの自販機があったのでペットボトルを交換・補充する。

335kmあたりでようやく短いアップダウンが一段落する。ここから房総半島南端の根本港までは短い平坦区間のはずだ。若干の向かい風だが風もさほど強くなく走りやすい。そうこうしている内に白浜町を過ぎる。ここは何年か前に家族で旅行に来たことがある。私がダイエットしたり自転車を始めたりするずっと前の事だ。その過去の私が数年後にここをロードバイクで千葉一周を24時間以内に走るために駆け抜けることを知ったらどう思うだろうか、そんな取り留めもない事を思う。平坦で海沿いの良い道だ。昼間に走ったらさぞ気持ちが良かっただろう。ふと夜空を見上げると綺麗な月がでている。それは本当に綺麗な月だ。一瞬、自転車を止めて写真を撮ろうかとも思ったが考え直す。多分、私のスマホではこの月は綺麗に取れないだろう。それよりはこの景色を脳内に焼き付けようと思った。平坦な海岸線、街灯もない真っ暗な道、夜の海、その夜の海を煌々と照らす月。メンタルが回復する。ツイッターの応援もたくさん来ている。今の私がやるべきことはペダルを回すこと。

根本港をまわり洲崎に入るとまた短い登りと下りを繰り返す区間だ。洲崎の高級旅館の前を通り過ぎる。いつかこんなところに宿泊してみたいものだ、と場違いな事を考える。館山を抜け、3/4の390kmまであともう少し!

鬼門の3本目をようやく乗り越えた。もうエアロ筋なんて残っていない。下ハンが持てない。疲労感の所為で泥酔した時のようなフラフラする感覚を覚える。全身の血が沸き立って沸騰しているかの様だ。だからこそ感じる。私は今、最高に生きていると。この感覚を味わうために私はロードバイクに乗っているのだと。仕事だけを生きがいに生きていたら決して味わう事のなかった、この感覚を噛みしめる。残りは1/4だ。たったの130kmだ。392kmを15:46で走ったからグロスは24.88 km/h、達成ペースのグロス22 km/hなら17:49だから、2時間の貯金を維持できている。いける。いけるぞ。あとは栄光に向かって走るだけだ。気持ちに余裕が出来たので妻からの応援にリプを返しておく。家に無事に帰るまでがチバイチ24Hだ。

短い登りと下りを繰り返しながら鋸南町を抜ければ、次は金谷港だ。「金谷フェリー」の看板が見える。ここからは東京湾イチで走ったことがある道だ。一度走ったことがあるというだけで、何故か安堵感がある。メンタルに効く。なるほど、これが下見の重要性か、と妙に納得する。やはり知識は知っているだけではなくて実際に経験しないと「しみじみ感」を持って定着しない。まだ登りと下りが続くが、あと少し、木更津まで抜ければ、もう後はゴールの市川までずっと平坦だ。ここで背中の補給を食べ切ったので最後のコンビニ補給に入る。413km地点。ここまで補給はすべて事前の予定スケジュール通りに来ている。パーフェクトゲームだ。

もうここまで来れば無理に固形物を取る必要はないので、アンパン(このアンパンは最後まで食べることは無かった)とゼリードリンクを買う。ツイートしようとして忘れてしまっていた。身体は限界だが、時間に余裕があるので欲が出る。篠さんのルートでは富津岬までは通らないのだが、ここまで時間があれば富津岬も回って完全チバイチにしても良いかもしれないと余計な事を思いつく。グーグルマップで富津岬に向かうナビを入れると早速道に迷った。本来なら紫のルートを行くつもりが橋が工事中で通れない。結局、時間だけ無駄にして元のルートに復帰。再度、富津に向かうつもりにはなれず、そのままルート通りに木更津に向う。

富津を過ぎれば、ここからは片側2車線のだだっ広い道、県道90号~国道16号だ。しかし、広い道だというのに暗い。街灯一つない。幸いこの時間は車通りが殆どないのでトラックは右車線によけて余裕をもって追い越してくれる。しかし、信号の繋がりがあまりよくない。風は向かい風だ。3/4をクリアした興奮も落ち着き、気持ちが少し萎えてくる。もう下ハンを持つエアロ筋は残っていない。が、ここでようやく残り100kmを切った。サイコンに表示される数字に心が躍る。この辛いのもあと5時間もすれば終わるのだ。人間終わりが見えてる事は頑張れる。あと少しだ。

あと100km、あと100kmと言い聞かせながらペダルを回す。信号で止まれば背中のゼリードリンクを口に含む。しかし、ここで口に含んだゼリー飲料に違和感を感じる。気持ち悪いのだ。少しでもカロリーを取ろうと買っておいたコーラを飲んでも気持ち悪い。普段の食トレで胃腸を鍛えてきたと思って来ただけに残念だ。でも、もうゴールは見えている。ここまでのカロリー摂取の積み上げでゴール前にハンガーノックになることは、もうないだろう。むしろ、ここまで大量のカロリーをエネルギーに変換し続けてくれた胃に「ありがとう」と思う事にした。胃よ、お前はよく頑張った。あとは俺に任せろ。

このツイートをうった後、何故か涙が溢れてきた。泣くのはまだ早いだろ!と自分に突っ込んでも涙が溢れる。感情の崩壊に理由など必要ないのだ。疲労が限界にきている。理由は分からなくとも原因は明らかだった。涙で前が見えなくなるのには困ったが、ペダルは構わず回す。

少し経って気持ちは落ち着いたが、今度は感情のピークを迎えてしまった為に緊張感がなくなり過ぎて出力が出なくなってしまった。踏もうと思っても100~130Wくらいしか出ない。心拍数も今まで130~140をキープしていたのが、110くらいまで落ちてしまう。ただペダルを回すことしか出来ないのには変わりないので、だらだらと漕ぎ続けて市川~千葉を抜け幕張に入る。幕張を抜けたら357号線だ。流石天下の大国道、この時間でも車がたくさん走っている。高架の坂が限界が近い身体に効く。だが、あと少しだ。このペースなら漕ぐのさえ辞めなければ24時間以内ゴールできる。のろのろのダンシングだっていい。ひたすらにペダルを回す。

500km地点。残り23km。ようやく357号から左折して浦安に逃れ、ここからディズニーランドに向かう。時間は十分に残っている。あとはやり切るだけ。まだ貯金は1時間30分くらいはキープできている。予定より大分早い。こんな深夜帯だと流石にゴールの迎撃はないかな、と思う。

車1台通らない土曜日の深夜~早朝の浦安の道。ローディーが見えた。一瞬、目を疑う。こんな時間にこんなところにいるなんて、迎撃しかない。途端に嬉しくなる。「てり~さんお待ちしてました。」。「!!!!」言葉にならない嬉しさがこみ上げる。挨拶を交わしたらフォロワーのtoppyさんだ。まさか本当に来てくれるとは。嬉しさで心が震える。不思議なもので、ここまで疲労で出力が出なかったのが一気に覚醒して力が戻る。エアロ筋に力が入り、足に活力が戻る。今までタレて25~km/hで巡航していたのが、また30km/hで巡航できるようになる。あと、1時間ちょっとだ。toppyさんにヘロヘロのみっともない所は見せられない。気合を入れる。

toppyさんが「てり~さんのカッコいい背中撮らせて下さい!」と言って写真を撮ってくれた。嬉しい。これで益々みっともない姿は見せられなくなった。最後の1時間だ。かっこよくゴールしよう。

ディズニーランド前で記念撮影をしてもらう。なんともう一方迎撃してくださった方が。本当に嬉しい。

あとは江戸サイまで戻って市川橋まで北上するだけだ。江戸川を東京側に渡る橋への登り方が分からなくて迷ったけど、toppyさんに案内して頂いて事なきを得る。良かった。下調べが足りなかったと反省。

東京側の江戸川脇の道を気持ちよく駆け抜ける。ここに来て完全に気持ちも活力も戻っていた。誰かに後ろから見ててもらえるだけでこんなにも力が湧いてくるのか。江戸サイに入り、あとは市川橋まで一直線だ。残り1kmを切る。私がズイフトで所属しているチームTMRではゴールはスプリントするのが習わしだ。残り700m。topyyさんに「最後にスプリントします!」と宣言して、ダンシングで思いっきりペダルを踏みしめてから、シッティングのハイケイデンスでぶん回す。もうこれで最後だと思えばなかなかの出力がでた。あとは階段を自転車を担いで上がり、市川橋の道を渡ってゴールだ。

2021年10月16日(土)5:15 チバイチ523.45kmをグロスタイム22:26で達成。
ゴールではスタート時に迎撃してくれたHさんや、フォロワーのあきもつさん、先日キャノンボールを達成されたズイフトチーム アニマルズ所属のにー(像)さんも迎撃してくれた。もちろん浦安からずっと後ろをついてきてくれたtoppyさんも一緒だ。本当に嬉しかった。疲労感と達成後の虚脱感で頭が回らない、折角私の為に時間を使ってくれて迎撃に来てくれたのだから気の利いた事の一つでも言わねばと思うのだが、口から言葉が出てこない。。。あきもつさんからは差し入れで飲むカレーを頂いた。そうこうしている内に雨が降ってきたので解散となった。ギリギリまで天気が持ってくれて今回のチバイチ24Hではひたすら運に恵まれたとしか言いようがない。

喜びを噛みしめて座り込んでいる暇はない、直ぐに家に帰って仮眠を取って今日の午後は子供を幼児教室に連れていくパパ業があるのだ。それが妻から今回のチャレンジの為に時間を貰う条件でもあった。市川駅に着き、輪行をセットして電車に乗り込み、ようやく達成報告をツイートした。

浦安から市川まで1時間以上お付き合いを頂いたtoppyさんからも改めてツイッターでお祝いのコメントを頂いた。最後、カッコよくゴールできたのはtoppyさんのお陰です。本当にありがとうございます。

そして、フォロワーの皆さんやズイフト仲間やレジェンド級のキャノンボーラーの先輩方まで、ここでは紹介しきれないくらい沢山の方からお祝いのコメントを頂いた。本当に感謝です。辛い時間に貰った応援のリプにどれだけの力を貰ったか分からない。

私のチバイチ24Hの結果は
距離: 523.45km
時間: 22時間26分(グロスタイム)
獲得標高: 1664m
NP: 135W
でした。ツイッターで応援してくださった全ての皆様、普段から「キャノンボーラーになりたい」という私の年甲斐もない馬鹿な夢を理解してくれてサポートしてくれる家族に、何度でも感謝の言葉を述べたいです。本当にありがとうございます。

これで私のチバイチ24Hの挑戦記はおしまいです。ここまで長文を読んでいただき、本当にありがとうございました。

筆者情報(初投稿時)

名前: てり~ Twitter @TerryRinRoadbik
年齢: 1985年産まれ36歳(執筆時)
身長: 176cm / 体重: 60~62kg / 体脂肪率: 9~11%
自転車歴: 2021年1月1日~
年間走行距離: 16,000~ km (2021年10月19日時点) (9割がズイフトです)
FTP: 247W / CTL 120~125

ライドスタイル: ズイフト、ロングライド、ファストラン、通勤、ヒルクライム
所有車両: CARERRA TD-01 AIR DISC (外乗り用) / TADA No. 74 (ズイフト用) / GARNEAU GARIBALDI G2R (通勤&グラベル)
大学卒業後、無職を経験。オーストラリア人の彼女(現妻)と国際結婚するために仕事だけを生きがいに頑張っていたら気が付けば30代も後半に「自分には何も無い人生」に失望し、一念発起して-27kgのダイエットに成功、その後ロードバイクに出会いロングライドの楽しさに目覚め、無謀にも「キャノンボーラー」を目指す。「今が人生で一番楽しい」「残りの人生で一番若いのは今日」をモットーに頑張っています。0歳と6歳男児のパパでもあります。
ファストラン記録:チバイチ523km 22時間26分 (2021年10月15日)
          東京湾イチ252km 13時間17分 (2021年7月22日)