安価な紐引き油圧ブレーキを選ぶべきではないこれだけの理由
目次
はじめに
この度は当ブログを読んでくださる読者様にご心配とご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした。私がアリエクスプレスで購入した安価な紐引き油圧ブレーキをその潜在的な危険性を考慮もせず、当ブログで好意的に取り上げてしまったことを真摯に反省しております。
この数日、私なりに何が本件の問題であるか、またその潜在的な危険性について再度勉強しなおし、現状紐引きディスクキャリパーにおいてはGrowtac(グロータック)のEQUAL(イコール)キャリパーが最善である事を明確な理由を持って理解できる事が出来ました。ツイッターでのご指摘本当にありがとうございました。
GrowtacのEQUALキャリパーは「ワイヤー紐引きで機械式の方押しピストン」のディスクブレーキ用キャリパーな訳ですが、「機械式の片押しピストン」と聞くとShimanoで最も安価なディスクブレーキに採用されている方式で、「紐引きだけど油圧で両押しピストン」の中華ディスクブレーキ用キャリパーがなんとなく悪くなさそうと思ってしまう方はそれなりにいるかと思います。結論を先に申し上げると「安価なワイヤー紐引き油圧ブレーキ」が持つ潜在的な脆弱性は下記の通りです。
安価なワイヤー紐引き油圧ブレーキが持つ潜在的な脆弱性
ダウンヒル等のハードブレーキングでキャリパーの温度は100℃以上になる
↓
紐引き油圧ブレーキはキャリパー内に油圧を生むためのピストンがあり、油圧ピストン内のオイルシールは熱で継時劣化していく
↓
オイルシールの劣化具合は外からでは診断できない
↓
ダウンヒル中のハードブレーキングでキャリパーが高温になった時に、キャリパー内のオイル回路の内圧が上がり劣化したシールを突き破りオイル漏れが発生
↓
ブレーキングが全くできない状態になる
当ブログからのリンクのアクセスで私が紹介してしまった当該製品を購入した方がいない事は確認できていますが、もし買われてしまった方がいたら、どうか使用する事はお考え直し下さい。
本件の経緯
ツイッター以外で検索等からアクセス頂いた方もいるかもしれませんので、始めに本件の経緯をご説明させていただきます。言い訳がましく聞こえる部分もあるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。
「大阪~東京キャノンボール研究所」のばるさんが愛車にEqualキャリパーを導入されたブログ記事がツイッターの界隈で注目を集めました。
GROWTAC EQUALブレーキを導入(前編)
GROWTAC EQUALブレーキ、そろそろ組み上がり
GROWTAC EQUALブレーキを導入(後編)
ばるさんの一連の記事の話の流れを簡単にまとめますと、
→新しい油圧ブレーキのロードバイクを買って乗ってみたのものの何か動きがもっさりしている気がする
→STIレバーの重量が油圧ブレーキの場合は重いことに気づく。かつ、今はグロータックのイコールキャリパーという良い製品がある
→STIレバーはR8020から紐リムブレーキ紐変速のST-R9001のSTIレバーに、ブレーキはグロータックEqualキャリパーに換装
→劇的に乗り味が変化!
という事でした。ツイッター上でも大変盛り上がる話題となり私もイコールキャリパーと紐引きブレーキのコンポを採用して軽量なロードバイクを組む計画を思いつきました。
全コンポ12種類の重量と価格の比較!R8020油圧ディスク紐変速を卒業したい! | キャノンボーラーに憧れて
最もコスパの良い軽量フレームはどれだ!? | キャノンボーラーに憧れて
その後、軽量なロードバイクを組む企画の第三弾として当該のZTTOのワイヤー紐引き油圧ブレーキを当ブログで好意的に取り上げてしまいました。この製品はキャリパー2個で約5500円という価格に加え、重量もEQUALとほぼ同じという事で深く考えずに購入に至り、ブログ記事にしてしまいました。素直にEQUALキャリパーを買えば良かったのですが、「独自性を出したい」「皆が使っていない製品を使ってみたい」等の余計な思いを抱いてしまいした。重ねて深く反省しております。その後、ツイッター上で当該製品の使用についての危険性について多くの方からご指摘を頂き、紹介記事を公開停止にし、今に至ります。
本当に言い訳がましく聞こえてしまうかと思いますが、紐ブレーキコンポを使って紐引きブレーキと組み合わせでディスクロードバイクを組むという新しい流れが一般的に認知されていく中で、EQUALの価格が3万3千円に対して当該のブレーキが6分の1の価格で重量も同じなら使ってみたいと思ってしまう方はいるかもしれません。私の様なロードバイクに乗り始めて1年未満の初心者が、上辺のスペックだけを見比べれば興味が出てしまうのは仕方の無い事です。しかしながら、ツイッター上でもご指摘いただきましたが、国内代理店がない(取り扱っていない)という事は何らかの致命的な欠陥または危険性があるという事であり、個人の使用であってももし事故があれば家族や仕事や所属するチームおよび(本当にありがたい事に私も界隈の一人として認知して頂いているツイッターでの)ロングライド界隈にご迷惑をかける事になり、ましてやそれをブログで好意的に取り上げることにより読者様の中で私の意見を信頼して使って頂いた事により事故などに至る可能性を十二分に熟慮出来ておりませんでした。重ねて真摯に反省をしております。
そういうのを含めて、安全に関わる部分については
— はやと (@hayato406) November 19, 2021
製品そのものの信頼性
メーカーの責任能力
この二つはマジで重要だと思う。変なものを使うってことは後者の観点からも遺族にリスクをおっつけるわけであって、まぁ死んでも誰も困らない人ならまだマシっちゃマシだけど。
個人的には「トライスポーツとゼータトレーディングが扱おうとしないマイナーブランドは何かある」と思ってますね……この2つの代理店は常に世界中のマニアックなブランドに目を光らせているので。
— ばる (@barubaru24) November 19, 2021
日本人Youtuberでも取り上げられ始めた
重ねて言い訳がましく聞こえてしまう事をご容赦いただきたいですが、前述の様な思考パターンをしてしまったのは私だけではないようです。
「こんなに安いのに、こんなに素晴らしいんだよ」ってのを見つけるのには確かにめちゃくちゃロマンあるんだよね。
— はやと (@hayato406) November 19, 2021
けれど、それっておたふくインナーだとかテムレスとか、例のポンプとかみたいにダメでも死にはしないものであるべきなんだと思う。
Youtubeでは少なくとも2つの動画で当該製品が取り上げられているのを確認しました。同じ方です。チャンネル登録者数も4300を越えており、影響力が懸念されます。
↑通常のShimanoの油圧ディスクブレーキと比べてZTTOのワイヤー式油圧ディスクブレーキは制動力は劣るもののリムブレーキ程度と好意的に取り上げています。
↑こちらの動画ではZTTOのワイヤー式油圧ディスクブレーキが軽量化の目玉とまで言い切って好意的に紹介しています。
外観は堅牢に見えてしまう
アリエクで当該製品を買ってしまうと、実際に届くのはこれです↓
画像では良く見えませんが肉眼だとマシニングの跡が綺麗に見え、かなり堅牢な作りに見えます。「2個で5500円という安さに警戒していたけど、実物はしっかりしていて、使っても大丈夫そう!」。そう思えてしまうと思います。しかしながら、当該製品の脆弱性は金属ボディの作りではありません。構造上、油圧ピストンがブレーキング時に高温に晒されるキャリパーに付いており、オイルシールの劣化が避けられない事です。
高温に晒されるオイルシールはいずれ必ず劣化する=ブレーキが作動しなくなる
繰り返しにになりますが、紐引き油圧ブレーキは 油圧ピストンが高温に晒されるキャリパーに付いており、オイルシールの劣化が避けらません。こちら↓のイギリス人(?)Youtuberの方の動画を見ていて理解に至りました。
この動画自体は当該の紐引き油圧ブレーキ(ZRACEブランドの物)を全体的には好意的に取り上げており、2400kmの走行テストも問題なかったとしていますが、論点はそこではありません。
mi.ximブランドの当該の紐引き油圧ブレーキは楽天市場でも販売されているのを確認しました(但し、個人輸入扱いで販売店は一切責任を取らない方式)。ブランドは違いますがすべて同じ型で同じ製品です。
では、順を追って 「安価なワイヤー紐引き油圧ブレーキが持つ潜在的な脆弱性 」について説明していきます。
安価なワイヤー紐引き油圧ブレーキが持つ潜在的な脆弱性
ダウンヒル等のハードブレーキングでキャリパーの温度は100℃以上になる
↓
紐引き油圧ブレーキはキャリパー内に油圧を生むためのピストンがあり、油圧ピストン内のオイルシールは熱で継時劣化していく
↓
オイルシールの劣化具合は外からでは診断できない
↓
ダウンヒル中のハードブレーキングでキャリパーが高温になった時に、キャリパー内のオイル回路の内圧が上がり劣化したシールを突き破りオイル漏れが発生
↓
ブレーキングが全くできない状態になる
ダウンヒル等のハードブレーキングでキャリパーの温度は100℃以上になる
ダウンヒルなどの連続したハードブレーキングによって熱くなるのはローターとパッドだけではありません。キャリパー自体も100℃を越える温度になります。前述の動画ではどれくらいのダウンヒルか分かりませんが、101℃という数字がでておりました。日本の〇〇峠という様な長いダウンヒルであればもっと高温までいくかも知れません。
紐引き油圧ブレーキはキャリパー内に油圧を生むためのピストンがあり、油圧ピストン内のオイルシールは熱で継時劣化していく
紐引き油圧ブレーキは構造上、油圧を生むためのピストンがキャリパーと一体化しています。(水色で囲った部分)。ワイヤーを引くことによってこのピストンが押し込まれて油圧が発生し、キャリパー内側のシリンダーが押されてブレーキパッドがブレーキローターに押し付けられます(黄色矢印)。すなわち、前述の100℃以上の高温にこのピストン部分も晒されることになります。油圧ブレーキは油圧が全てです。つまり、ピストン部分やオイル回路でオイル漏れが発生してしまうと、いくらピストン部分を押しても油圧が発生せず、まったくブレーキが効かない状態になります。
油圧回路自体はキャリパー内部に溝を掘っている筈なので、筐体がざっくり割れてオイル漏れしたり、ドレインプラグからオイル漏れが発生する事は考えにくいですが、ピストン部分は違います。摺動させる為にオイルシールを使っているので、オイルシールが高温に晒される事によって必ず劣化していきます。
私は本業で潤滑油を取り扱っているので、自信を持って言えますが、100℃以上の高温に晒されて劣化しないオイルシールはありません。特に何千回、何万回と摺動する部分のオイルシールであればなおさらです。
オイルシールの劣化具合は外からでは診断できない
そして、最も厄介なのはオイルシールの劣化具合は外からでは診断できない事です。お恥ずかしながら私は当初この紐引き油圧ブレーキを使う事を危険だから止めた方が良いとご指摘を受けた際に、「安全に配慮して定期チェックしながら使えば大丈夫」と安易に考えてしまいました。しかし、脆弱性の本質は金属製の筐体ではなく、ピストン内部のオイルシールなのです。オイルシールの劣化具合はオーバーホールで分解しないと分かりません。まさにいつ(オイルシールが)爆発するか分からない時限爆弾です。
いつ爆発するかわからない時限爆弾みたいなものですから、オススメはしません。安易にメカニカルディスクを勧めてしまったことを後悔しています。
— ばる (@barubaru24) November 18, 2021
前述の動画では2400km走っても問題なかったと言っていますが、それが3000km時点や5000km時点で起きない保証はどこにもないのです。もしくは個体差でオイルシールの品質や座りが悪ければ500kmでオイル漏れするかもしれません。それは誰にも分からないのです。
また、当該製品についてはピストン部分に外付けのラバーシールすら貼られておらず、ピストン内部に水やゴミが侵入し放題になっています。↓ガッツリと隙間が空いているのが分かりますでしょうか?ピストン内が錆びればその分オイルシールを傷つける確率が上がり、オイル漏れの可能性が高まります。
ダウンヒル中のハードブレーキングでキャリパーが高温になった時に、キャリパー内のオイル回路の内圧が上がり劣化したシールを突き破りオイル漏れが発生
そして憂慮すべきは「オイルシールが切れてオイル漏れを起こす時」は、多分、最も起きて欲しくないときに起きるという事です。平坦な道を走っていてブレーキキャリパーへの負荷が低く温度が低い時は劣化したオイルシールでもぎりぎりオイル漏れをせずに保っているでしょう。しかし、長い峠のダウンヒルで連続したハードブレーキングでブレーキキャリパーの温度が上がると当然ピストン部とオイル回路の内圧が上がります。そして、ついに劣化したオイルシールが破断してオイル漏れが起き、ブレーキがまったく効かなくなります。
前述の動画でも「ライド中に前後両方のブレーキキャリパーからオイル漏れが起きて死にかけた」というツイートが紹介されています。(この人は、「まあ、僕は問題なかったけどね!はは!」で済ませていますが。。。)
ブレーキングが出来ない状態になる
ここまで書くともう蛇足かもしれませんが、オイル漏れが発生すれば油圧が発生しなくなり、油圧が発生しなくなれば、ブレーキはまったく効きません。オイル漏れが前後のブレーキで同時に起きた時にはもうどうしようもありません。
安全担保の為にフロントには使わないでリアだけ使えば良いんじゃない?という人もいるかもしれませんが、制動力はフロントが8割、リアが2割といっても、その2割が生死を分ける時があります。車に突っ込まれて急激に制動力が必要な時やスピードが出すぎてしまってタイトなコーナーに入る時などです。繰り返しになりますが、この安価な紐引き油圧ブレーキを使う事はいつ爆発するか分からない時限爆弾を付けて走るのと同義です。
当初こんな製品を好意的に取り上げてしまい本当に申し訳ありませんでした。
Shimanoの油圧ブレーキは安全なの?
油圧ブレーキはオイル漏れが起きるとまったく効かなくなる=油圧ブレーキって怖い
と思われない様に補足をさせて頂くと、Shimanoの純正油圧ブレーキではこの問題の心配はありません。それは
①油圧ピストンは熱の影響を受けないSTIレバー内部にある
②油量が多いので加熱しても内圧が上がりにくい
からです。
① 油圧ピストンは熱の影響を受けないSTIレバー内部にある
Shimanoの純正の油圧ブレーキでは油圧を生み出す為のピストンはSTIレバー内にあります。それが故に「油圧STIレバーは重い」という不満に繋がるのですが、機構としてハードブレーキングしても熱の影響を受けない位置に油圧ピストンがあるのは理に叶っているのです。常温域であればオイルシールもほぼ劣化しないでしょうし、どうしてもピストンが外側に剥き出しになってしまう紐引き油圧ブレーキと違い、STI内部に油圧ピストンがあるので、雨水や異物の侵入の心配もありません(STIレバー発売以来の長い技術の蓄積があると思います)。
②油量が多いので加熱しても内圧が上がりにくい
ハードブレーキングすればブレーキキャリパーは加熱されます。Shimano純正の油圧ブレーキであれば油がオイルラインを通ってSTIの小さなオイルタンクまで繋がっているので一部分が加熱されても内圧を逃がす先(圧力が分散しやすい)があります。しかしながら、紐引き油圧ブレーキはあの小さな筐体部分に油が詰まっているだけなので、内圧が上がっても逃げる先がなく、またブレーキオイルが全体で加熱されることで内圧が上がってしまいオイルシールに負荷が掛かるのです。
油圧ピストンは押し戻す力は弱い
先ほどの潜在的なオイル漏れの危険性よりは一段レベルが下がりますが、「油圧ピストンは押し戻す力は弱い」というのがあります。紐引き機械式ブレーキであればブレーキを引いた後にバネの力で元の位置に戻りますが、油圧ブレーキは油圧のピストンが押し戻す力で元の位置になります。それはバネの力より弱いものです。紐引きディスクブレーキ全体の問題として、どうしてもワイヤリングがリムブレーキより長くなるという問題点があります。すなわち、ブレーキを引いた後にインナーワイヤーが何処かで引っ掛かったり、単純にインナーワイヤーがより長いので抵抗が大きくなります。
当該の紐引き油圧ブレーキではピストン部分にラバーシールすらされておらず、雨水や異物が侵入し放題なことから、ピストン内が錆びれば押し戻す力が更に弱まるでしょう。前述の動画ではフロントもリアもブレーキを引いた後に元の位置に戻らなくなったと言っていました。
油圧でも機械式でも制動力は変わらない
「紐引きであっても機械式より油圧の方が制動力が高いのではないか?」というご疑問は最もです。しかしながら、これも既に答えが出ており基本的には純正の油圧ディスクブレーキでも紐引き油圧ブレーキでも紐引き機械式ブレーキでもリムブレーキでも理論的な制動力は変わりません(雨の日と握力の弱い人を除く)。なぜなら、制動力を決めるのは路面とのタイヤの摩擦力であって、ブレーキの種類に関してはタイヤをロックさせるだけの制動力があれば同じだからです。但し、握力の弱い方に限って言えば、圧倒的に純正の油圧ブレーキの制動力が高いと言えます。
「ちょっと待ってよ。じゃあ何でさっきの日本人Youtuberの制動力の比較動画で純正の油圧ブレーキと紐引き油圧ブレーキで差が出たの?」と思われた方は鋭いですね。それは純正の油圧ブレーキが最もコントロール性が高く、路面とタイヤがロックするギリギリを探るのに適しているからです。例えば立ちごけするのを厭わずに、全種類のブレーキでタイヤをロックさせれば理論上制動距離は同じになる筈です。
方押しでも両押しピストンでも制動力は変わらない
「そうは言っても方押しより両押しピストンの方が制動力が高いんじゃない?」というご疑問があるかもしれません。しかしながら、先ほどと同じ理屈でタイヤをロックさせるまでに必要な制動力は方押しでも両押しピストンでも変わりません。↓実は自動車界隈でもまったく同じ議論がなされています。面白いですね。
ディスクブレーキは「片押し」より「対向」キャリパーのほうが制動力が増すわけではない!
一般的には、「片持ちキャリパーよりは、4ポッド、4ポッドより6ポッドの方がよく止まる」と思われがちだが、そもそもタイヤをロックさせるだけの力がキャリパーにあれば、制動力に変わりがない。制動距離はタイヤのグリップ力と、ABSの制御の優劣で決まるといっていい。
https://www.webcartop.jp/2016/11/54605/
両押しピストンのメリットはブレーキパッドが方減りしない事だけです。
選ぶべき製品
ロードバイクの軽量化の為やリムブレーキ車からディスクブレーキ車に乗り換えの為に紐引きのディスクブレーキ用キャリパーを検討する人は増えてくるかと思います。↓下のブログで紹介されている様に、確かにグロータックのイコールキャリパー以外にも選択肢はあります。しかしながら、ここまでご説明したように安価な紐引きの油圧ブレーキには潜在的な脆弱性があります。(大手メーカー製の紐引き油圧ブレーキに関する見解については↓の「補足」をご参照ください)
機械式DISCブレーキ用のコンポまとめ(ワイヤー式DISCブレーキのコンポ)
私がお勧めするのは先ず一番にGrowtacのEqualキャリパーです。最初からこれを買っておけば良かったです。重ねて反省しています。
どうしても予算の関係上、Equalの前後セットで3万3千円だすのは厳しいという方はShimanoの機械式から選ぶのが良いかと思います。ちょっと調べてみたところ、ロードバイク用のShimanoの機械式ですとSORAグレードのBR-RS305一択ですね。その他の機械式キャリパーはポストマウントなので別売りのポスト→フラット変換マウントが必要で大変不格好になります。しかもマウントが1800円/個くらいしますので、一番安いBR-M375を選ぶ理由は何処にも無いかと思います。
ブランド | グレード | 型番 | 重量 | 価格/個 | マウント |
Shimano | SORA | BR-R317 | 215 g | ¥4,780 | ポストマウント |
Shimano | 105 | BR-R517 | ? | 終売 | ポストマウント |
Shimano | ULTEGRA 6800 | BR-CX77 | 159 g | 終売 | ポストマウント |
Shimano | SORA | BR-RS305 | ? | ¥5,034 | フラットマウント |
Shimano | MTB用 | BR-M416A | ? | 終売(中古~2500円) | ポストマウント |
Shimano | ALTUS | BR-M375 | ? | ¥2,118 | ポストマウント |
何故イコールは機械式の方押しピストンなのか
ここまで大分長くなりましたが、ここまで思い至って改めてGrowtacさんのEqualキャリパーに関する開発コンセプトとデータのPDFを読み直すとすべての項目が自然と理解できます。
Growtac コンセプト&データ
機械式はどうでしょうか?
https://growtac.com/wp/wp-content/uploads/equal_DBR_concept_data_20210430.pdf
現状、10年以上前から技術的に変化が少なく、効かない、グレードが低いものとして認識されています。
しかし、機械式は⾃転⾞⽤途で考えるとメリットも多い⽅式です。
そこで、私たちに疑問が⽣じました。
ロード、MTB、シクロクロス、グラベル等、全てのジャンル、全てのユーザーに油圧式が正解なのか?
もし、良く効く機械式のディスクブレーキがあれば、⽤途や好みで選択できるブレーキが増えるのではないか。
私たちは、現状の機械式ディスクブレーキの課題と真剣に向き合い、機械式の弱点を克服しました。
作りたいモノは、”良い機械式ディスクブレーキ”ではありません。
⾃分のスタイル、⾃分の楽しみにあったブレーキシステムを “選択する⾃由” を作りたいのです
EQUALでは無理な両押しではなく、部品点数が少なく、⾼剛性、⻑寿命に有利な“⽚押し”を選択しました。
https://growtac.com/wp/wp-content/uploads/equal_DBR_concept_data_20210430.pdf
重量であったり、製品の信頼性であったり、安全マージンであったり、技術力のあるGrowtacさんが「紐引きディスクブレーキ」の全ての選択肢に思い至って出した答えが「方押しの機械式ディスクブレーキキャリパー」だったのですね。重ねて安易な考えで安価な紐引き油圧ディスクブレーキを購入してしまった自分が恥ずかしいです。
リアのキャリパーは雨水対策が必要
さて最後におまけ的に先ほどのイギリス人Youtuberの方がが取り上げていた雨水でインナーワイヤーが錆びる問題を紹介したいと思います。↓下の画像でインナーワイヤーが錆びているのが分かりますでしょうか。これはEqualキャリパーでも共通の問題点になるかと思います。
ローターが雨水を巻き込んで水色線方向に水しぶきが飛んで、それをインナーワイヤーを伝ってアウターケーブル内に侵入し、インナーワイヤーを錆びさせてしまうというものです。もちろん、ここまで錆びるとブレーキの動作に支障をきたし危険だと思います。
ですので、こちらのYoutuberの方は↓下の水色の部分にグリースを詰めて、かつラバーシールの付いたジャグワイヤーのエンドキャップを使って対策したとの事です。Equalのデフォルトのインナーワイヤーはポリマーコートされていないので気を付けたいですね。(Equalがデフォルトにポリマーコートのインナーワイヤーを使っていないのはワイヤー径が大きくなることで引きが重くなったり、戻りが悪くなったりするのを避ける為と推測します)
↓Youtuberさんが使ったのは多分これです。
↓シマノの場合は
アウターキャップ類とアウターケーシング
https://bike.shimano.com/ja-JP/information/jp-news/cable-ezupgrade.html
アウターキャップはあまり注目されることはありませんが非常に重要な部品のひとつです。シマノのシールドアウターキャップは内部の小型Oリングにより、アウターケーシング内への水や泥の侵入を防いでいます。
シフトケーブルの交換で手軽にバイクをリフレッシュ
流石、世界のShimanoですね。
おわりに
この長いレポートをお読みいただきありがとうございます。私の失敗が反面教師となり、少しでも参考になったらば幸いです。重ねて情報配信をするブロガーの立場として意識が甘かった点について深く反省とお詫び申し上げます。
補足
(2021年11月22日追記)
この記事の結論として、油圧ピストン式のブレーキは構造的欠陥があるから使わないほうがいいって読んでしまう(間違ってたらごめん)。
— 魔獣 (@Naoki_andy) November 22, 2021
それじゃあ構造的に安いやつ買っても高いやつか買ってもダメやんって言うことになりますかね?
その辺りはどうなんですか? https://t.co/bxUchf7CSR
というご質問を頂きました。安価な(いわゆる中華)紐引き油圧ブレーキ以外の紐引き油圧ブレーキについて見解を述べさせて頂きます。
先ず、一つ目、国内代理店のダイアコンペで取り扱いのあるJuin-Techの紐引き油圧ブレーキです。
なお、セミ油圧のフラットマウントだとJuin-techって所が日本のダイアコンペ扱いにあります。https://t.co/QZHXjpnPmg
— ばる (@barubaru24) November 21, 2021
こちらは前後で314g。私は使ったことはないですけど、悪い噂は特に聞きません(使用例が少ないだけかもしれない)。
F1 Disc Brake(FLAT MOUNT)- DIACOMPE
Amazonだと並行輸入品が多く取り扱われていますが、国内代理店経由の正規品の定価は28,050円です。実はJuin-Tech F1は前述のイギリス人Youtuberの方の動画で紹介されておりました。Juin-Tech F1はZTTOの紐引き油圧ブレーキと違いピストン部分に外付けのラバーシールが貼ってあったり、もう少し製品としては作りこまれている様です。しかし、動画の中でJuin-techもシールが壊れてオイル漏れしたという事例があったそうで、やはり使用するのは怖い、という印象です。国内正規品の値段であればもう5000円出せばGrowtacのEqualが買えますので、私ならEqualを選びます。
↓こちらはJuin-tech R1のシールがオイル漏れしたから交換用のシールを売っているかい?という問い合わせのツイートですね。
Hey @edgesportsukllp I saw you sell replacement seals for the juin-tech R1. Do you have replacement and bleeding guide for a leaking Juin tevh R1 caliper?
— opignon libre (@oPignonLibre) November 29, 2018
次に紐引き油圧ブレーキの定番アイテムであるTRPのHY/RD。
価格は1個で15,950円。という事は2個で31,900円。キャリパーが加熱された際に上がってしまう内圧を逃がすためのリザーバータンクがピストン(マスターシリンダー)横にある構造の様です。但し、安全の為にそういった構造を盛り込めば当然重量が増えてしまいますので、1個で205gという重さになります。長く使われているアイテムですし作りこまれていて安全性には問題が無いと思いますが、この価格と重さであればもう1000円出して33,000円で1個136gのGrowtacのEqualキャリパーを私なら選びます。
TRP HY/RD紐引き油圧ディスクブレーキ
— bistarai@サイクリスト&ブロガー (@bistarai785) November 21, 2021
キャリパー本体にリザーバータンク
実際に自分ではTRPもZTTOも使い倒して確かめてはいませんので推測含むですが、ZTTOはパッキン劣化以前にこれらの構造と比較して設計的、構造的に危なっかしいかなと。
流通や責任保証等も含めて。https://t.co/hH1xAQ8jRF
HY/RD FLAT MOUNT
逆説的に言えば、リザーバータンクなどの安全に必要な機構を排除しているのでZTTOの紐引き油圧ブレーキは軽量化できていると言えます。「軽くできない」のには理由があるのです。GrowtacのEqualキャリパーの発売以前であればTRPのHY/RDを使う選択肢はあるかなと思いますが、今はEqualキャリパーがありますので価格的にも重量的にもEqualを選ぶのが合理的かと私は思います。
(2021年11月24日追記)
オイル漏れの前にもマスターシリンダーとブレーキピストンの距離がかなり近いからオイル漏れにまで至らなくても、ペーパーロック現象は起きやすそうですね
— WTb (@ossan5684) November 22, 2021
ツイッターのコメントでベーパーロック現象(Vapor lock)の危険性についてご指摘がありましたので、これについて考えてみました。いかんせん、実験データやエビデンスデータがあるわけではないのですべて私の推察となります。先にご了承ください。
ベーパーロック現象とはブレーキの使い過ぎて、ブレーキフルードの沸点を越えてしまい、油圧システム内に気化したブレーキフルードが挟まることでブレーキが効かなくなる現象です。車の免許を持っている人はお馴染みの教習所で習うあれです。なので、なるべくブレーキは引きずってはいけませんよ、と。今回、その危険性について考察した安価な紐引き油圧ブレーキはリザーバータンク無し・ピストンとキャリパーが一体・軽量の為ブレーキフルードの総量も少ない事から、前述の動画の例でキャリパーの温度が101℃まで行っているとしたらブレーキフルードも101℃まで温度が上がっていると考えられます。Shimano純正の油圧ブレーキであればキャリパーの温度が高くても油圧ブレーキホース内のブレーキフルードやSTIレバー内のピストンやリザーバータンクのブレーキフルードの温度は上がらないで、安価な紐引き油圧ブレーキはベーパーロック現象が起きやすいのではないかというご指摘でした。
自転車用油圧ディスクブレーキに使われているブレーキフルードは自動車用の様とは違い、Shimanoの場合はミネラルオイルが使われています(SRAMは自動車様と同じDOT=グリコールベース)。ミネラルオイルとDOTブレーキオイルの違いは吸湿性の有無です。ミネラルオイルの場合は疎水性の為に、水が混入すると100℃で水が気化してブレーキが効かなくなります。DOTは親水性なので水が混入してもある程度の沸点を保つことができます。沸点そのものはミネラルオイルの方が圧倒的に高く、粘度にもよりますが、だいたい300℃前後です。(ちなみにDOT3規格のブレーキフルードのドライ(新油時)沸点は205℃、ウェット沸点は140℃です。ウェット沸点というのは自動車で1~2年ブレーキフルードを使うと3.7%吸湿すると言われていて、吸湿後の沸点です。)
データがないので、これも完全な推察ですが、ではキャリパーが連続したハードブレーキングでどれくらいの温度までいくかと考えると、何のデータもない中で安易にいうのは危険ですが、仮定として140℃くらいまではいく可能性がありそうですが、200℃や300℃付近までは流石に行かなそうな気がします。(ローターとパッドの接触点が居所的にこれくらいの温度まで上がることは考えられますが、キャリパー全体の温度がそこまでいくのは考えにくいかと)
次に考えるべきは、では疎水性のミネラルオイルに水が混入してしまってベーパーロック現象か起きるかどうか事ですが、これは無さそうだと考えます。何故なら紐引き油圧ブレーキはキャリパーだけで油圧システムが完結しており、製造時にブレーキフルードを封入した時点から完全密封されるからです。この仮説の裏付けは、紐引き油圧ブレーキメーカーの「メンテナンスフリーポリシー」から推察する事が出来ます。
前述のJuin-Tech F1 Disc Brake(FLAT MOUNT)の場合は「●ミネラルオイル仕様(メンテナンス不要)」「オイル交換はしないで下さい、保証の対象外になります。」とあります。自動車でブレーキフルードを交換するのはどうしても吸湿してまうからですが、紐引き油圧ブレーキの場合は完全密封状態なので水が外から混入する要素が無いため、オイル無交換としているのではと推察します。というより外から水が混入した時点でオイルシールが死んでいるのでオイル漏れします。
ということは、キャリパー全体の温度が300℃付近まで上がることは無さそうではあるので(重ねてデータが無いので推察ですが)、安価な紐引き油圧ブレーキでもベーパーロック現象はそうそう起きないのではと考えることが出来ます。
これは前述で紹介しているイギリス人Youtuberの「2400kmをハードにテストしたけど問題なかったよ!はは!」という証言とも整合性があります。
但しこれは「ブリーディング(エアー抜き)が完全にされている製品である」という前提に基づいています。製造者の品質管理状態によってはエアー抜きが完全に出来ておらずベーパーロック現象が起きる個体があっても不思議ではありません。
「じゃあ、問題ないんじゃん!大丈夫じゃん!」というわけではなく、逆説的にそこが怖い所だと思うのです。当初、恐る恐る使ってみるも「全然大丈夫じゃないか!」という印象を持ち、安心して使っていたらある時突然オイルシールが破れてオイル漏れを起こし、ブレーキが完全使用不能状態に。。。。ブレーキフルードは劣化しなくてもオイルシールは確実に劣化するのです。
「使い始めてみたら、思ったより大丈夫そう」というのが、この安価な紐引き油圧ブレーキの一番怖い所なのかもしれません。
安価なワイヤー紐引き油圧ブレーキが持つ潜在的な脆弱性
ダウンヒル等のハードブレーキングでキャリパーの温度は100℃以上になる
↓
紐引き油圧ブレーキはキャリパー内に油圧を生むためのピストンがあり、油圧ピストン内のオイルシールは熱で継時劣化していく
↓
オイルシールの劣化具合は外からでは診断できない
↓
ダウンヒル中のハードブレーキングでキャリパーが高温になった時に、キャリパー内のオイル回路の内圧が上がり劣化したシールを突き破りオイル漏れが発生
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ブレーキングが全くできない状態になる
名前: てり~ Twitter @TerryRinRoadbik
年齢: 1985年産まれ36歳
身長: 176cm / 体重: 60~62kg / 体脂肪率: 9~11%
自転車歴: 2021年1月1日~
年間走行距離: 16,000~ km (2021年10月19日時点) (9割がズイフトです)
FTP: 243W / CTL 120~125
ライドスタイル: ズイフト、ロングライド、ファストラン、通勤、ヒルクライム
所有車両: CARERRA TD-01 AIR DISC (外乗り用) / TADA No. 74 (ズイフト用) / GARNEAU GARIBALDI G2R (通勤&グラベル)
大学卒業後、無職を経験。オーストラリア人の彼女(現妻)と国際結婚するために仕事だけを生きがいに頑張っていたら気が付けば30代も後半に「自分には何も無い人生」に失望し、一念発起して-27kgのダイエットに成功、その後ロードバイクに出会いロングライドの楽しさに目覚め、無謀にも「キャノンボーラー」を目指す。「今が人生で一番楽しい」「残りの人生で一番若いのは今日」をモットーに頑張っています。0歳と6歳男児のパパでもあります。
ファストラン記録:チバイチ523km 22時間26分 (2021年10月15日)
東京湾イチ252km 13時間17分 (2021年7月22日)
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