てり~キャノボ後編2

御殿場~秦野~厚木~日本橋

時刻05:44、スタートから18:31、427km、貯金48分。気温4℃。寒い。ついに御殿場の市街地に入った。この坂のど真ん中に街があるのはちょっと不思議な感じだ。御殿場の寂れた商店街を見ながら走っていると急に下り勾配が始まっているのが見えた。ついに。この長い登りがやっと終わったのだ。貯金は大分削れたがちゃんと脚は残せた。ここまでずっとスタンディングで来ていたので流石に腕は疲れたが良いトレードオフだ。削られてしまったグロスを取り戻すために直ぐにダウンヒルに入りたいが焦ってはいけない。このダウンヒルの為だけにこの長い道中かさ張って邪魔くさいスキーグローブを持ってきたのだ。自転車を止めてサイジャのポケットから素早くスキーグローブを取り出してはめる。ダウンヒルが終わったら外す予定なのでここまでずっと着けて来たラファの薄手のフルフィンガーグローブの上からはめる。少しキツイがブレーキ操作に影響が出るほどではない。漕ぎ出す前にもう一度ブレーキをにぎにぎしてちゃんと操作できることを確認して出発。ダウンヒルの始まりだ。

時刻06:13、スタートから19:00、439km、貯金52分。気温4℃。快調にダウンヒルを飛ばしていく。長く登った分、長く緩やかな下り勾配が続く。風が一気に身体の熱を奪いに来る。寒いが上下のゴアテックス装備のおかげでなんとかなる。身体の芯はまだ暖かいしスキーグローブのお陰で手先も寒くない。このまま登りで失ったグロスを取り戻していきたいところだ。幸いにしてここまで眠気もまったくない。高い集中力を保てている。

時刻06:27、スタートから19:14、446km、貯金58分。気温4℃。まだまだ続くダウンヒル。なんとか寒さに耐えれている。通勤の時刻に入り車の台数がかなり出て来た。信号が少ないので車の流れは止まっていない。このまま行けば大丈夫。
と、ここまでちょうどロードバイクで走るのに適した車の流れだったのが急に詰まる。15km/hくらいでのろのろとは進んでいるので流れに合わせて仕方なく走っていると警察車両が見える。事故だ。どうやら2台の追突事故の様だ。ライトの破片などが道路に散乱しているのでタイヤで踏まない様に目を凝らしてゆっくり走る。こんなところでパンクなんて絶対にごめんだ。警察官の誘導指示に従って事故で1車線になっていた部分を無事に通過。大丈夫、パンクはない。ふぅ、と息が漏れる。

時刻06:43、スタートから19:30、453km、貯金1時間1分。気温4℃。ほぼ無風。唐突にダウンヒルが終わり、登り返しが見えた。えっちらおっちらまたダンシングで登っていく。登りのお陰で少し体が温まる。
ここで金谷峠でのサイコンリセット事件の所為で充電できていなかったサイコンが死んだ(実際には死んでいく無くてバッテリーセーブモードに移行していてた)。ログが全部取れないであろうことは諦めていたのでステムに固定している中華スマホのグーグルマップを開いて日本橋の道路元標までルート設定する。とりあえずは246号線を自転車禁止区間を回避してひた走って行けばよいので、道に迷う事はないだろう。特にこれからの区間は生活圏内に入るので前に何度も走っている。なんとかなる筈だ。

時刻7:36、スタートから20:23、470km、貯金54分。登り返しの短いダウンヒルを終えて、ようやく長いダウンヒルがすべて終わった。気が付けば秦野を通り過ぎている。もう厚木の手前くらいか?改めて身体の状態を確認する。ダウンヒルの走行風で身体の表面は冷えたが、身体の芯はまだ暖かい。スキーグローブのお陰で指先のかじかみも無い。低体温症の初期症状は出ていない。意識もはっきりしている。眠気もない。キャノンボールのラスボスと言われる御殿場の登りを良い状態で乗り越えられたのだ。心の中で小さく「よしっ」とガッツポーズする。少なくとも良くあるDNFのパターンと言われるダウンヒルで低体温症になり厚木辺りででDNFという事は無さそうだ。もうスキーグローブは必要ないだろう。信号待ちでさっと外してサイジャケのポケットに仕舞う。
だが、ここに来て本当に渋滞が酷い。向かい風もかなり出て来た。目に見えてペースが落ちている。歩行者がおらず歩道を走れるところは歩道を走らせてもらうが、焼け石に水のペースだ。自身の見込みの甘さを後悔する。11:00発はあまりに見込みが甘すぎた。流石、首都圏の月曜朝の渋滞は半端ない。ゴールまで残り60km程だ。全行程520km中のたったの60kmだ。だが、この60kmが無限に遠く感じる。残り時間は4時間弱。要求グロス速度が22km/hで今まで頑張ってきたのだ、それを下回る20km/hで走れればあとたったの3時間で終わる距離なのだ。だが、この60kmが気の遠くなるような距離に感じる。

時刻8:11、スタートから20:58、481km、貯金49分。厚木市内の246号線を真北に上がる区間を過ぎて、ついに相模川を渡る手前まで来た。酷い渋滞に向かい風、そして最後の鬼門の激しいアップダウンがここから始まる。はやとさんのツイートが沁みる。そう、要求グロスはたった16.3km/hでいいのだ。ここまで22km/hオーバーで走り続けてきたことを思えば何ともない数字だ。11:13までにゴールしなければいけないので、残り3時間。この1時間だけでも20km/hで走ることが出来れば、残りの要求グロスは15km/hを切るのだ。都内に入れば酷い信号峠でどうせペースは上がらない。ここだ。この瞬間だ。この時の為にずっと脚を貯め気持ちを抑えて感情を爆発させない様にコントロールしてきた。今だ。今なのだ。すべてを出し切るのはこの瞬間なのだ。
持てる力を振り絞り短い坂をダンシングで積極的に踏み抜く。坂でも渋滞でも車の流れがある。その流れをなるべく崩さない様に残された全ての力を振り絞って踏んでいく。はあはあ、と息が上がる。もう後たったの3時間なのだ。この1時間が勝負、この1時間が勝負と何度も自分に言い聞かせる。ズイフトレースで苦しい時を思い出す。そういつだって苦しいのは、苦しくて千切れてしまうのはレースの後半そしてゴール前なのだ。ズイフトレースではいつもそこで千切れていた。だけど、今回だけは千切れない。この1時間を踏み抜いて絶対にキャノンボールを達成する。強く強く自分に言い聞かせる。今この1時間を気持ちで踏めるかどうかでここまで頑張りとこの1年間の頑張りの全ての真価が決まってしまうのだ。

時刻8:57、スタートから21:44、497km、貯金46分。妻からの応援ツイートが沁みる。こんなわがままな挑戦を1年も応援してくれた妻には本当に感謝だ。情けない結果は見せられない。酷い向かい風と無限に続くかに思うような246号線のアップダウン、そして渋滞。登りは車道と歩道を使い分けさせて貰いながらダンシングで出し惜しみなく力を振り絞って登る。下りは向かい風を少しでも和らげるため下ハンを握ってなるべく伏せて走る。車の流れに少しでも乗る為に下りでも積極的に踏んでいく。休むところがなくかなり辛い。向かい風が酷いので上体は自転車に伏せつつ交通量が多いので安全確保の為に顔はしっかり上げて周りを見える状態にする。首が悲鳴をあげるが知ったことではない。他に方法はないのだ。身体はあと2時間強持てばいいのだ。だけど、ここが最後の勝負だ。ここで気持ちが負けるわけにはいかない。幸いにもエアロ筋はまだ生きている。はあはあと息をつきながら持てる力の全てでペダルを回す。サイコンが死んでいるため(実際にはバッテリーセーブモードだった)、自分が今何Wで踏んでいるかは分からない。ただ、グーグルマップのナビには速度が表示されるので、それだけを頼りに踏んでいく。とにかく30km/h台に乗る様に、それだけが目安だ。
ここで唇周りが異様に乾燥している事に気づく。口の中がカラカラだ。まさかここに来て脱水症状か?一瞬で背筋が凍り付く。このタイミングで脱水症状になれば間違いなくDNFだ。回復を待っていられる程の貯金はない。確実にキャノンボール達成を諦めなければいけないだろう(24時間以内に走るのが達成、24時間以上が完走)。ふざけるな、という気持ちが溢れてくるが安全を第一と決めていた以上仕方ない。ちょうどペットボトルも空になっていたので、ゴミ箱のある自動販売機で飲み物を買い足す。その場で水分補給をしながら身体の状態を確認する。確かに疲れはあるが、特に意識が混濁していたり、手足に力が入らなかったりなどという感じはない。とりあえずは緊急性は低いと判断し、直ぐに走り出す。すると今潤した筈の唇と口の中が一気に乾く。そんなに喉が渇いている状態ではないのに明らかにおかしい。最後のグロスを稼ぎ出すためにペダルはしっかり回しているので、はあはあと息が漏れる。正面からは強烈な向かい風。ここでようやく理解がいった。この口の中の異様の渇きは強烈な向かい風がはあはあしている口の中に入って急速に口の中を乾かしているのだと。そこまで気づいて安堵と共に笑いがこみ上げてくる、なんとまあおあつらえ向きな日にチャレンジを決行したもんだ。「最後向かい風と渋滞でもなんとかなるだろう。最後まで勝負が分からない方が熱い。キリッ」とか抜かしていた過去の自分を殴ってやりたい。とりあえず脱水症状でDNFの危険はない様だ。周囲の車の動きを感じ取る集中力も十分にある。気を取り直して最後の2時間半を踏み抜く!

時刻9:05、スタートから21:52、500km、貯金46分。9時を過ぎたお陰でようやく通勤の渋滞も一段落という感じだ。まだまだ車の数は多いがどん詰まりでどうしようもない状態ではなくなった。と、通り過ぎていく車の窓が開いて「がんばれーーー!」という声援が。「ありがとうございます!」と精一杯返事をしてダンシングで坂を登っていく。もう何本目の短い登りか分からない。サイコンの画面が消えているので自分がどれだけの出力が出せているのかも分からない。だが、この今の時間の、この瞬間の頑張りで全てが決まるのは分かっている。貰った応援を力に変えて残るを力を振り絞ってペダルを踏み抜いていく。もう残りの体力なんぞ考える必要はない。オールアウトに向けて全ての力を出し切る。もし間に合わなかった時にまだ脚があった状態であれば自分を許せない。何度でも自分に言い聞かせる。ここだ。ここが全ての想いをぶつける時間なんだ。

時刻9:10、スタートから21:57、502km、貯金47分。市ヶ尾で鶴見川を渡る手前。後ろからハブとシフトの音、ローディーの気配が。「てり~さんですか?」と声をかけて迎撃下さったのは、ズイフターのぬまさん(Twitter @Ken07034)だ。キャノボでは前を引いて頂くわけにはいかないので、後ろをついてきて頂く。少し一緒に走った所で「写真撮りますよ!」とフォトアタックしてぬまさんが先行。ばっちり動画を撮っていただく(↑)。本当にありがたい。その後、信号待ちで追いつかれて「良いペースで来ていますね。このまま行けばキャノボ達成行けそうですね。」とポジティブに声をかけて頂くも、ラストスパートをかけてかなり体力的に追い込んでいたので「渋滞と坂と向かい風と信号があるので、まだまだ油断できない状況なんです!!」と少しまくし立ててしまう。折角迎撃をしてくださったのに、にこやかに対応できない自身の狭量さを恥じて我に返る。余裕を失ってはいけない。「では、私はここで!最後まで頑張ってください!」と爽やかにぬまさんが去っていき、ここでお別れ。ゴールした後にちゃんとツイッターで自身の非礼さを詫びようとここに決めて、今は前に進む。1分でも1秒でも前に。

時刻9:28、スタートから22:15、508km、貯金45分。多摩川手前の246号線のバイパスを回避する。サイコンが死んでしまって(実際にはバッテリーセーブモード)、事前に準備していたルートが分からないので、グーグルマップの自転車走行ナビと記憶と絶対に自転車走行禁止の看板を見落とさない様に進んでいく。変な道に入り込んでしまいグロスを失う。が、自転車走行禁止区間に迷い込まなかっただけましと割り切る。246号線に復帰後、車に注意しながら直ぐにまた全力で踏み切る。
ついに多摩川の手前まで来た。ここは何度も渡っているので不安はない。246号線の橋は自転車走行禁止なので左側をそのまま走って川に突き当たる。T字路になっている信号を右だ。信号がえらく長く感じる。なかなか信号が変わらない。気持ちが焦るのを落ち着けと自分に言い聞かせる。やっと信号が変わったと思っても信号のあるT字路は2段階右折が義務だ。向こう側に渡り、また信号が青に変わるのを待つ。本当に時間が長く感じる。青になった。少し休めた分、またペダルをハイペースで踏んでいく。川沿いを少し走って直ぐに左折して橋を渡る。二子玉川のシャレオツな駅前を駆け抜ける。そして、246号線に復帰。残りの力を振り絞る。踏め!踏むんだ!疲労はピークだが感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。まるでニュータイプの様に車が後ろから接近して来るのを肌で感じて分かる。大丈夫、集中力は高い。このままやりきる。

歩道から迎撃の応援が!「ありがとうございます!」と短く返して今は何より1分1秒でも前に進むことを目指す。

時刻10:03、スタートから22:50、518km、貯金37分。残り1時間10分で12km。環七を渡り、ついに完全に都内に入る。要求グロス速度はついに10.3km/hまで下がった。信号峠と相変わらずのアップダウンと車の数とひたすら吹き続ける向かい風のある最悪な状況には変わりないが、勝負の時間と決めたこの2時間を踏み抜いたのだ。ここまで来てようやく勝ち確だ。少し安堵するが、気を抜き過ぎない様に思い直す。ここで事故やパンクになれば全てが台無しだ。最後まで気を抜いてはいけない。ここから最後の1時間は出力ではなく、事故とパンクに最大限注意しなければいけない。もうここまで来たんだ。焦ってはいけない。安全第一、安全第一。
ここで「ピコッ」とガーミンが音を立てた。「ん!?」と思い画面を触るとスクリーンが表示される。中でずっと動いていた様だ。てっきりバッテリーが死んだかと思っていたが、バッテリーセーブモードでスクリーンが消えていただけで、ずっとログは記録されていたらしい(グロス速度を見る為、自動停止機能はオフにしていた。その為信号待ちでは音が鳴らない)。本当によかった。ずっとサイコンのバッテリーは死んだと思い込んでいた自分が可笑しくて少し笑いがこみ上げる。

時刻10:42、スタートから23:29, 528km、貯金25分。ついに皇居に入る。もう本当にゴールは目の前だ。あとたったの2km。貯金も十分ある。完全に気分はパレードランだ。皇居のお陰で急に視界が開けて見える青空が眩しい。皇居前の道路から永大通りへ右折。あとは真っすぐ進んだ後に左折すれば、この24時間いや1年間ずっと想い続けてきた日本橋だ。
永大通りは大企業がたくさん入居する日本有数のオフィス街だ。スーツ姿のサラリーマンたちが歩道を歩いている。実は前職ではこの通りにある企業の営業を担当していて、ここには毎日の様に通い詰めていた。彼らが今の私を見たらどう思うだろうか?そんな場違いな事を思う。本当に24時間で大阪からここまで来てしまったのだ。自分でも信じられない程ばかげていると思う。もう本当にあと数百メートルだ。その先を左に曲がればもう目の前にあれが見えるはずだ。

左折する手前で「てり~さんですか?」と迎撃が。キャノンボーラーのひがさん (Twitter @thigashi1976)だ。後ろからゴールの瞬間を撮って頂けるらしい。後ろをついてきて頂き、ついに左折する。目の前に見えた。ああ、日本橋だ。本当に日本橋だ。

ゴール

石造りのアーチの美しい造形が鮮明に見える距離にある。本当にここまで来たんだ。最後はカッコよくゴールしたい。最後の、本当に最後の1滴を絞り出すようにダンシングする。橋の上にある元標の前を通り過ぎる瞬間、自然と右手が挙がっていた。
2021年12月12日 11:13 大阪発
2021年12月13日 10:53 東京着
タイム23時間40分、距離530km

日本橋を渡り終わった位置にあるのが国道1号線の道路元標(複製)だ。すべてのキャノンボール挑戦者の青春の象徴。その前に自転車を持っていく。思わず天を仰いだ。「終わったぁぁぁぁぁっ!」本当に長かった。ここまで一瞬だって気を緩められる隙はなかった。無事に事故もなく終えれた事に本当に感謝して安堵する。

私のキャノボゴールは6人の方に暖かく迎撃して頂いた。(以下、簡単なご紹介)
にーさん(像さん)(Twitter @nii_21_nii)、ズイフトチームアニマルズ【AMNs】に所属されるつよつよズイフターさんです。にーさんにはチバイチの時にもゴール迎撃を頂きました。私の2か月前にキャノンボールを達成されております。
330Kさん(Twitter @330k)、キャノンボーラー達成者であり「330K INFO」で有名な「キャノンボール専用 天候・風向き予測」を無料公開して下さっています。ブルベレポートも大変勉強させていただきました。
盗まれた過去(Corratec)を探し続ける可能性ののけものさん(通称Corratecさん)(Twitter @GUNHEDun507、グルメポタで #アラフィフ男子の休日 シリーズをいつもツイッターで楽しませて頂いております。
ふぃりりんさん(通称ふぃりっぷさん)(Twitter @ymp1032)、有名つよつよロングライダーでキャノンボール22時間切り達成者であり、PBPなども余裕で時間内完走された憧れの方!Pekoさんの同人誌でもお馴染み。
Urakiさん、(Twitter @Uraki0214)、私がロードバイクを始めた時から仲良くさせて頂き、今では縁あって同じ実走チームのTeam Delfinoのチームメイトになりました。ロードバイクで知り合った大切な仲間です。

動画を撮影して下さったひがさん (Twitter @thigashi1976)は11時から会議の予定があるのにも関わらず迎撃に来てくださり、そのままゴール地点で歓談する事なく走り去って行かれました。お話しできず残念でした。

「先ずはゴールの記念撮影をして下さい」と言っていただいたので、道路元標の前に自転車と一緒に立ってポーズをとる。ポーズはさっき皇居前を走りながら考えておいた。これしかない。「ガンダム、ラストシュート」

チバイチの時はゴール後の満身創痍と安堵でゴール迎撃して下さった方々に碌に挨拶も出来ず大変失礼な対応をしてしまったので、今回はちゃんとお名前を聞いて一人ひとりにお礼を申し上げる。こんな平日のど真ん中の真昼間に6人もの方に出迎えて頂けたなんて本当に感謝です。

ひとしきり挨拶を終え、「お疲れでしょうから座ってください」と促され元標のチェーンにもたれかかって腰を下ろした。途端に腰が抜けたというか、どっと疲れが押し寄せた。もう立ち上がる事さえ困難だと思うような疲労感。ここまでの緊張と集中が一気に抜けてしまった反動だろう。

その座り込んだ態勢のままホッカイロやゼリードリンクやプロテインドリンクなどをの差し入れ差し入れを頂いた。「一番辛かったのは何処でした?」なんて、キャノボの旅の思い出を少しだけ歓談した後に、皆さんお忙しいので直ぐに解散する。もう一度ゴール迎撃に来て下さった事へのお礼を述べた。

ゴール後

 無事に事故無くゴール出来たことへの安堵。無事に24時間以内に走り切り、キャノンボールを達成できたことへの安堵。最後のラストスパートで全てを出し切りオールアウトした疲労感。1年間ロードバイクにのめりこみ応援してくれた妻への感謝。何者でもない私を応援してくれたツイッターの皆への感謝。平日の真昼間だからゴール迎撃は誰もいないだろうなんて思っていたら、6人もの方々に達成を祝福して頂いた喜び。迎撃して下さった方々へお礼を言い解散した後も座り込んだ場所から動けないでいた。考えがまとまらない。ゴールした瞬間、歓喜極まって泣くかなと思っていた。意外と冷静だなと自嘲する。

Urakiさんが少し時間があるという事でそんな私の隣にしゃがみこんで付き合ってくれた。話を聞くとツイッターでは私が思った以上にお祭りになっていたらしい。本当に光栄だ。安堵感からかここで腹が減っている事に気付く。沼津で買ったゼリードリンクも飲み尽くし最後の2時間くらいは何も補給していなかった。背中にスタート地点で買ったまま食べ切れずに残っていた「タンパク質の摂れるチキン&エッグサンドイッチ」が1つ残っている事を思い出す。まあ冬だし未開封だから腐ってはいないだろう。差し入れで頂いたゼリードリンクとプロテインドリンクと一緒に食べ始める。ああ、このサンドイッチは私と一緒に大阪から旅をして来たのか。まったくばかげている。思えば最後に固形物を食べたのは4時くらいだから7時間ぶりの固形物なのか。胃の重たさはすっかり解消していてサンドイッチの美味しさが胃に染み渡る。これがスイッチとなった。理屈じゃなかった。Urakiさんと歓談しながら、安心感と達成感と疲労感と全てがごちゃまぜになった気持ちが溢れて涙になった。サンドイッチとプロテインドリンクは美味しかった。もう意味が分からない。

思えばUrakiさんには本当に感謝だ。ロードバイクに乗り始めて1ヵ月未満でキャノンボール挑戦を宣言した訳の分からない男に付き合っていただき、宣言後1週間で衝動買いした今回のキャノボの相棒となったCARRERA TD01-AIRの納車にも付き合ってもらった。初めて誰かと一緒にライドしたのもUrakiさんだった。初めて200kmを走った時も100kmくらい一緒に付き合っていただいた。縁あって実走チームのTeam Delfinoのチームメイトにもなった。そして今。私のキャノンボールのゴールを見届けて頂いた。感謝の気持ちでいっぱいだ。

10分以上そうしていただろうか。Urakiさんに話に付き合ってもらいながら気持ちが落ち着くのを待った。カロリーも入り座り込んで体力も少し回復したので立ち上がる。そうだ。ちゃんとツイートしなければ。応援してくれた人たちへの報告はツイ廃の義務だ。早速Urakiさんに撮って頂いた先ほどの写真を使わせてもらう。もうなんて書いたら良いか分からなかったので今の自分の素直な気持ちをツイートする。

(↑人生最多いいね数を貰ったツイートなのに盛大に日付を間違えていました。如何に疲労困憊だったかが分かります。)

家に事故無く無事に帰るまでがキャノンボール。ここから横浜の自宅までは25km程。自転車通勤をしているので走り慣れた道だ。530kmに対する25kmなんて誤差みたいなもんだ。ここまで酷い向かい風だったのだ帰りは強い追い風になる。だらだら漕いでも1時間半もあれば帰れるだろう。Urakiさんにわざわざ来ていただいたお礼をもう一度行って横浜に向けて出発した。

意気揚々と走り出したもののまったく脚が回らない。まあ追い風が吹いているので脚が回らなくても前には進んでいるのだが、明らかに集中力が散漫しているのが自分でも分かる。先程までニュータイプの様に車の動きを肌で感じ取っていた感覚が無くなっている。真横を抜いていく車が見えていない。これはいけない。このまま漕ぎ続けたら事故になる。もうキャノボは達成しているのだ。無理して自走にこだわる必要はない。たった1km程でDNFを決める。輪行する為に近くのJRの駅まで行くのすら安全上躊躇われるので、もうタクシーに乗って帰ることにする。タイヤを外すのすら怠いので路肩からワゴンタイプのJapan Taxiの車種を狙って手を挙げて止める。運転手さんに後部座席のシートを跳ね上げて貰えば、なんとロードバイクのタイヤを外さずに乗れるのだ。助手席に座り、自宅の住所を告げる。これで無事に家に帰れるのだ。冬の晴れた空の陽気と暖房と車の振動が心地よい。私は気づかないうちに眠りに落ちた。

御礼

↓キャノボゴール後に付き合って頂いたUrakiさんは実は朝一で4針縫った後だったにも関わらずゴール迎撃に来てくださっていました。後で知ってびっくりしました😱

私のキャノンボールレポートは以上です。何者でも無い私に身に余る応援を頂きまして本当にありがとうございました。達成後の祝福のメッセージではここでは紹介しきれない数のリプライや引用RTを頂きました。改めて重ねて感謝申し上げます。

筆者情報(初投稿時)

名前: てり~ Twitter @TerryRinRoadbik
年齢: 1985年産まれ36歳
身長: 176cm / 体重: 61~62kg / 体脂肪率: 9~11%
自転車歴: 2021年1月1日~
年間走行距離: 約20,000 km (2021年) (8割がズイフトです)
FTP: 252W / CTL 110~120

ライドスタイル: ズイフト、ロングライド、ファストラン、通勤、ヒルクライム
所有車両: CARERRA TD-01 AIR DISC (外乗り用) / TADA No. 74 (ズイフト用) / GARNEAU GARIBALDI G2R (通勤&グラベル)
大学卒業後、無職を経験。オーストラリア人の彼女(現妻)と国際結婚するために仕事だけを生きがいに頑張っていたら気が付けば30代も後半に「自分には何も無い人生」に失望し、一念発起して-27kgのダイエットに成功、その後ロードバイクに出会いロングライドの楽しさに目覚め、無謀にも「キャノンボーラー」を目指す。「今が人生で一番楽しい」「残りの人生で一番若いのは今日」をモットーに頑張っています。0歳と6歳男児のパパでもあります。
ファストラン記録:チバイチ523km 22時間26分 (2021年10月15日)
          東京湾イチ252km 13時間17分 (2021年7月22日)
         大阪東京キャノンボール530km 23時間40分(2021年12月13日)